赤ちゃんが生まれると、授乳やオムツ替えやお世話などで、1日は長く感じるのに、振り返ると、あっという間に1日が終わってしまうのではないでしょうか。
その間に、1か月、4か月などの定期検診を受け、振り返ると、数か月があっという間に過ぎていたと感じる親御さんは多いのではないでしょうか。
そして、「授乳の量」や「体重」や「機嫌の良し悪し」など、<目に見える子育て>に心を配っている親御さんは多いのですが、「言葉のインプット」や「知的な働きかけ」など<目に見えない子育て>に心を配っている親御さんは少ないようです。
「うちの子はまだ小さいからわからない」と思っている親御さんは多いようです。
しかし、脳の成長に関する研究が進むにつれて、知識は大人の方が多いけれども学習能力には臨界期が存在することがわかりました。
理化学研究所のヘンシュ貴雄さんは、
臨界期の考え方は、「脳には、発達のある時期を過ぎると、何かを覚えようとしても覚えられなくなるタイムリミットのようなものがあり、そのタイムリミットのことを『臨界期』というのです。
と言っています。
赤ちゃんは生後6か月で「母国語と外国語を聞き分ける」ことはよく知られています。
さらに、生後6カ月の赤ちゃんは「サルでも人間でも異なる動物の顔を認識できる」という研究結果が『サイエンス』誌に掲載されました。
ただ、無駄な情報は淘汰されますので、赤ちゃんは生後9か月ごろから「外国語」が聞き分けられなくなり、「サルの顔の認識」もできなくなるそうです。
声や体格や体質は遺伝が大きく影響しますが、能力や性格は環境、特に、小さい時の家庭環境が大きく影響します。
新生児の身体の細胞は2兆個、成人の身体の細胞は50兆個です。身体の細胞は成長と共に増えていきます。
しかし、脳の細胞の数は、新生児も成人も同じ140億個です。
では、赤ちゃんと大人、何が違うと思いますか?
「見る・聞く・匂う・触る・食べる」、ことにより五感を刺激すると、脳細胞と脳細胞をつなぐ、手のようなものが出ます。
この手のようなつながりをシナプスと言います。
シナプスが複雑に絡み合って、いろんな情報を伝えます。シナプスのつながり(神経回路)が違うだけです。
私達が、物を考える時には、脳細胞を使うのではなく、「この神経回路」を使っています。
例えば、お父さんとお母さんが、同じドラマや映画を見ても、共感する人物が違い、感想が違うのは、脳の神経回路のつながり方が違うからです。
「神経回路」が爆発的に増えるのが、胎児から3歳までと言われています。
3歳までにたくさんの刺激を受けると、からみあい多い、太い回路が出来上がります。
そして、6歳までに90%の発達をします。
また、同じ刺激を受け続けると、その回路は太くなります。
頭の回転が速い、記憶力が良い、たくさんのアイデアが出せる。このような人は、神経回路が複雑に絡み合って太い回路がたくさん出来ています。
人間は言葉でコミュニケーションをする生き物です。「頭の回転が速い」、「アイデアがたくさん出てくる」、「論理的に考える」、「表現する」などの力は、「見えない学力」と呼ばれています。
これは、もっている言葉の数、「語彙」が多いか少ないかで、高いか低いかが決まってきます。
音を聞く聴力は、お母さんのお腹に中にいる胎児の6ヶ月から8ヶ月の時にできてきます。
赤ちゃんは、お腹の中でお母さんの声を聞き、生まれてからは、周りの人の声を聞きます。
そして、声帯ができる1歳過ぎから、発音ができるようになります。
1歳から2歳までは、言葉の多い子と少ない子の差はほとんどありません。
2歳を過ぎると、言葉の数が多い子で約1000語、少ない子で約300語と、3倍以上の差ができます。
6歳になると、言葉の数が多い子で約6000語、少ない子は約2500語と、3500語の差ができます。
そして、小学校入学です。
小学校に入ると、30人前後の生徒に、先生が1人で授業を行います。授業を理解するためには、理解できる言葉の数が多いほうが有利です。
言葉の数はどんどん差が開き、小学校6年生ではたくさん言葉をもっている子は、37000語、少ない子は8000語です。
たくさん言葉を持っている子と少ない子の差は、29000語ですので、差は4.7倍です。
たくさん言葉をもっている子の、成績は上位です。
何が違うかというと、たくさん言葉をもっている子は、本をたくさん読みます。本を読むのが早いです。情報は文字で得られますので、テレビを見る時間が平均30分と、短いです。
言葉が少ない子は、本をほとんど読みません。本を読むのが遅いです。テレビを見る時間がとても長いです。
この習慣は小さい時にできます。習慣によって、言葉の差がどんどんできます。
「男の子は言葉が遅い」という人がいますが、私がこの10年間でアドバイスをした経験では、男の子でも2歳前からしっかりと会話をできる子はいますし、女の子でも健診で言葉の遅れを指摘された子はいます。
言葉も性別の違いではなく乳幼児期の家庭環境によって発達の違いがでるのです。
1回で理解と記憶が出来る、学力が高い子、何回読んだり書いたりしても理解と記憶が出来ない子の違いができます。
これは、遺伝ではなく、小さい時の家庭環境と習慣です。
「テレビやテレビゲームやパソコンなどのメディアに毎日2時間以上触れている、学力が高い子に会ったことがない」と、23年間公立小学校で教師を務めた教育評論家の親野智可等さんはおっしゃっていました。
さらに、お父さんやお母さんが優秀でも、お子さんへの働きかけがなければ、能力は育ちません。
反対に、お父さんやお母さんが平凡であっても、小さい時の家庭環境が良ければ、お子さんは優秀に育ちます。
つまり、お父さんやお母さんの能力よりも、お子さんが小さい時の家庭環境が大切なのです。
このように、胎教から6歳までの時期は、目に見えないけれども脳や能力の土台を作り大切な時期なのです。